2016/12/23

Pebbleの終焉から学ぶ - ハードウェアスタートアップの成長の難しさ

Pebbleの終焉


Pebbleシリーズ
出典:Pebble Developer Blogより

2016年12月7日、シリコンバレーに悲鳴とともに受け止められるニュースが流れました。スマートウォッチ最大手のFitbitが、そのスマートウォッチという商品カテゴリを生み出したPebbleを買収するというもの。

その悲鳴を生み出したのが以下2つの事実。


  • Pebbleの開発は終了し、今後のサポートは提供されない
  • Kickstarterで1,277万ドル、66,000人の出資を集めた新製品はキャンセルされ、返金となる

すなわち、Pebbleという製品シリーズの終焉です。


今回のポストは、この新たなシリコンバレーの失敗から学べることを考えてみたいと思います。



Pebbleとは?

初代Pebble。電子ペーパー搭載、スマートフォンと連携するプログラム可能な腕時計
出典:KickStarter Pebbleプロジェクトより

2012年4月、クラウドファンディングサイトKickStarterに新しいプロジェクトが立ち上がりました。それがPebbleの4年半あまりに渡る物語の始まりです。

当時はまだスマートウォッチという言葉もなく、プロジェクトタイトルは「電子ペーパー採用、iPhone/Android向け腕時計」というタイトル。プロジェクトの説明には「アプリケーションをロードできる腕時計」とも紹介されています。

このプロジェクトは 10万ドル(約1000万円) をゴールに設定されていましたが、なんと立ち上げ後わずか2時間で目標額を達成してしまいました。当時の最速最大額を集めたプロジェクトです。最終的には1,000万ドル(約10億円)を集めました。


Apple Watchの登場が2015年、Android Wearの登場が2014年であったことを考えると、スマートウォッチというカテゴリを最初に確立した会社・製品であったと言えるでしょう。逆にこのPebbleの成功があったからこそ、今日のApple WatchやAndroid Wearがあるとも言えます。

時計の見た目、腕時計に搭載された脈拍計などを用いた専用アプリを開発できる腕時計。それがPebbleです。


なおPebbleには後続製品としてPebble TimePebble 2 / Time 2といったプロジェクトもKickStarterで立ち上がり、それぞれ 2,000万ドル(約20億円)、1,200万ドル(約12億円)というとてつもない額の出資を集めています。


Pebbleが巻き込まれた厳しい競争


華々しくスマートウォッチ市場を立ち上げたPebbleですが、その後非常に厳しい競争に巻き込まれます。

Pebbleの2代目、Pebble Timeシリーズの出資期間が終了した 2015年3月27日から遡ること9日前の同年3月18日、GoogleがAndroid OS搭載ウェアラブルプラットフォーム Android Wearを発表。Androidスマートフォンを製造するMotorola、LG、ASUS、Samsungといった世界大手電機メーカーとのパートナーシップを発表し、同年6月にはその具体的なスマートウォッチ製品の出荷が始まります。

さらにその翌月、2015年4月24日には「スマートフォン」という市場が立ち上がるキッカケを作ったAppleが初代Apple Watchを発表。Google/Appleというシリコンバレーの巨人2社がスマートウォッチ市場に参入します。

PebbleもiPhone/Androidスマートフォンと連携することで価値を発揮する製品。そのスマートフォンそのものを牛耳る2社の参入は、Pebble社にとって非常に大きな壁となったことは想像に難くありません。

2015年4月、Apple Watch発表直後のBusiness Insiderの記事によれば、


  • Pebbleは2年で100万台を出荷した
  • Android Wearは登場から半年で72万台を出荷した
  • Apple Watchは初日だけで100万台を販売した

とのこと。Pebble社にとっては、Appleはたったの1日で自分たちが2年で築き上げた土台に並んでしまったのです。その脅威たるや計り知れません。


もう一つ、この脅威をグラフで見てみます。

スマートウォッチ出荷台数推移
出典:Statista.comのデータを元に筆者独自にグラフ化

2015年、Apple WatchがPebble社の規模を一瞬にしてニッチに追いやってしまったことがご理解いただけると思います。もはや数の暴力と言っても良い。見るだけで胃が痛くなる推移です。


そしてApple Watch登場から1年経った2016年5月、Pebble社は同社社員の4分の1に相当する40名の解雇を発表します。

リンク先の記事によれば


  • 資金の使用について、より慎重になる必要がある
  • 2016年に入ってから、ベンチャーキャピタルの動きが急にタイトになった


と語っています。特にベンチャーキャピタル資金の流動性については、私もサンフランシスコエリアに住んでいて漏れ聞こえていた話とも合致するため、Pebble社に対してだけではなくシリコンバレー全体がそのような状況になったということと思っています。



Pebble社の最期


そして冒頭にも紹介した2016年12月7日、Pebble社はその最期を発表しました。ここに至る経緯と、Fitbit社による買収の凄惨さをBusiness Insiderが記事にまとめています。

同記事を要約すると


  • Pebble社は、支援企業を探していた
  • 日本のシチズン社との協業中にも支援を模索したが、協業は失敗に終わった
  • 2016年、ファウンダーのMigikovskyは世界中を飛び回り出資を募ったが失敗に終わった
  • 最終的にFitbitが交渉のテーブルに付いたが、それは支援のためではなく競合であるPebble社を潰すことが目的だった


ということのようです。この最後のポイントを物語るエピソードとして、以下のような内容が紹介されています。


  • Fitbitは、Pebble社のハードウェアチームには履歴書の提示すら求めなかった:そもそもハードウェアチームの雇用を維持する意図がなかったということだ

当初は支援をちらつかせて歩み寄り、最後は握りつぶす…米国資本主義経済の怖さが垣間見えるエピソードです。



そしてPebble社の3つ目のKickStarterプロジェクトは、1200万ドル(約12億円)という大きな資金こそ集めたものの出荷する前に会社が吸収されてしまい、その製品は出荷されることはありませんでした。


何が悪かったのか?


スマートウォッチという市場を立ち上げ、その先駆者となったPebble社ですが、生き残ることは出来なかった。
大手の先陣を切って新たな市場を開拓しても勝者にはなれず、シリコンバレーの巨人たちに握りつぶされてしまった…というのがPebble社のストーリーです。

では、なぜPebble社は最終的に成功できなかったのか?


失敗の理由を明言することはできませんが、私は以下2点を挙げたいと思います。


1. BtoCハードウェア単体の販売では、事業継続できない世の中になっている


事業としてみた場合、Pebble社にはPebbleしかありません。ハードウェアの企画・製造事業者です。
特にBtoC市場の場合、このような業態の会社は生き残れないのだ…と感じます。

パソコンやデジタルカメラの例を引くまでもなく、21世紀のハードウェア商売は「超薄利」です。利益率は良くて3%、競争の激しい品種においては1%でも高いくらいの利益率です。

ハードウェア単体での差別化、付加価値をつけていくのはほぼ不可能と言っても良い。そのような環境下で、オープンプラットフォームであるがゆえにハードウェア以外で利益を創出できなかったPebble社は、成長軌道に乗ることが出来なかった…と言えるのではないでしょうか。


シリコンバレーにおける類例に、GoPro社もあります。彼らはアクションカムという新たな市場を創出し一世を風靡しましたが、近年は成長に陰りも見られます。ハードウェア製品頼りの会社はどうしても苦戦を強いられるようです。


2. 「腕時計」は単体では腕時計以上になり得ない


ユーザーとしてFitbit、Garminを使っていて感じます。腕時計は、それ単体では「時刻を知る」以外の便益を提供できないのではないでしょうか。つまり、スマートフォンの周辺機器である、という以上の価値が作れなかった。これが敗因ではないか、と感じています。



もちろんランナーズウォッチとしてGPS搭載、フィットネストラッカーとして心拍計を搭載するなどで付加価値を付け、便益として提供することは出来ています。しかし、世の中のどれほどの人がそれにお金を払うでしょうか?


Apple Watchも、あくまでiPhoneのコンパニオンデバイスの域を出ていません。iPhoneの通知を受けたり、iPhoneを通じてテキストメッセージに返信したり。所詮は「iPhoneがなければただの時計」です。少なくとも今のところは。


このような環境下で、スマートフォン界のトップ2であるAppleとGoogleを敵に回して、どうやって勝つことができましょうか。

惜しむらくは、そのハードウェアをベースにしたマネタイズ基盤があれば…というところ。たとえば月額わずかでも消費者が支払いたくなる何らかの便益があれば状況は変わっていたのでは。もちろん、私のようなシロウトにはそれがどんな便益であるか全く想像できないでおりますが。


まとめ:ハードウェアを作り続けるだけでは成長できない時代


Pebbleはハードウェアを提供した。そして生き残れなかった。

これまで様々な電機メーカーが直面してきたこの課題に、シリコンバレーのスタートアップも直面している。如何にアイデアに優れ、全く新たな市場を作り出したとしてもこの呪縛からは逃れられない…。そんな事実を目の当たりにしました。

世の中からハードウェアがなくなることはないでしょう。しかし、生き残るハードウェアは生態系を作り上げ、継続的な便益を生み出せるもののみになっていく…そんな気がします。例えばGoogle Homeのような。


後日談:失敗が歓迎されるシリコンバレー


ポスト中にも紹介しましたが、Business Insiderの記事によれば、Pebble社創業者のEric Migikovskyはシリコンバレーでも有名なスタートアップ支援企業であるY Combinatorで働くそうです。失敗経験のある起業家は、インキュベーターにとっては価値ある人材なのでしょうね。オフトピックですが、シリコンバレーという生態系の懐の深さを見せてくれる事例でもあります。