2016/03/05

クラウドファンディングを通して見る、モノづくりの難しさ、という話

クラウドファンディングって?


私が出資したプロジェクト、ZNAPSのプロジェクトTOPページ。
出典:KickStarter ZNAPS project page


クラウドファンディング。ごく端的に言うと「一般個人が、ごく少額からアーティストやクリエイター、モノづくりプロジェクトに出資できる枠組み」とでも言いましょうか。ノンフィクションやドキュメンタリー映画(リンク先は捕鯨の世論に関するドキュメンタリー映画制作プロジェクト)といった社会性のあるものや、ガジェットやスマートフォン周辺機器(同、デジタル一眼レフのリモコン操作を可能にするガジェット)、あるいは、そこそこ実績のある企業が新製品のテストマーケティングに使ったり(同、Pebble第二世代というスマートウォッチのプロジェクト)もするようです。


2013年くらいから日本でも立ち上がっていたようですね。さらっと検索してみたところ、MakuakeやReadyFor、CampFireといったサイト名が見つかりました。


仕組みは「アイデアややりたいことを持つ人が、そのコンセプトをWebサイト上で説明し、賛同してくれる人、欲しいと思う人、その人を応援したい人が出資する」ということ。
出資の見返りは、必ずしも製品や商品ではありません。例えば製品そのものは$500もする高額なものでも、例えば$20を出資するとプロジェクトの公式ロゴ入りTシャツなどがもらえる、というプランを用意する発起人さんもいたりします。



私が初めて出資したプロジェクト ZNAPS


ZNAPSのコンセプトGIF。スマートフォン側、ケーブル側の両方にアダプタをつけます。
出典:KickStarter ZNAPS project page


ある日、何気なくFacebookを眺めていたら流れてきたのがこちらのプロジェクト、ZNAPS。Macbookに搭載されている、マグネット接続の電源ケーブル MagSafe をiPhone/Androidスマートフォンで実現するというプロジェクトです。日本からも2700人ほどが出資しているようなので、このポストをご覧の方にももしかしたら出資されている方もおられるかもしれませんね。

iPhone/iPad/Androidを複数台持っていて、そこそこ頻繁に充電する私。クルマの中ではカーナビとして使用するため、シガーソケットライターからLightningケーブルとMicroUSBケーブルが2本伸びている私。速攻で出資しました。

金額も1つ$9からと少額であること、もしプロジェクトが失敗しても痛手は小さくて済むことから「手に入ればきっと便利だな」くらいの軽い気持ちで出資したのですが、このZNAPSへの出資により「モノづくりの難しさ」をつぶさに見ることが出来ました。今回は、そのことについてまとめてみようと思います。



最初の計画は、2015年11月の出荷だった


ZNAPSの初期スケジュール。残念ながら、この通りには行きませんでした。
出典:KickStarter ZNAPS project page


現在でもKickStarter上で記録が残っていますが、2015年7月15日のプロジェクト立ち上げ段階では同年11月の出荷予定となっていました。そして、私は2015年7月20日に出資しています。

※ちなみに、ZNAPSは立ち上げ後2日で目標額$120,000、およそ1500万円を達成し、最終的に約$3,000,000、約3億5000万円を調達しています。

しかしながら、今日2016年3月4日現在、私はこのZNAPSを受け取っていません。

一見順調に見えた資金調達、しかしながらモノづくりのドラマはここから始まりました。

この経過を、少し追ってみようと思います。


※ちなみにちなみに、ZNAPSのプロジェクトはとても頻繁に、少なくとも2週間開けずに(多いときには3日連続で)プロジェクトアップデートを公表しています。とても好感が持てます。ここでは、製造に関するアップデートのみ抜粋していますが、ほかにも「特許の問題はないよ」という通知やMFi認証(Apple公認iPhone周辺機器)に絡むものなどが出資者向け限定で公開されています。


2015年10月7日 製造に関する最初のレポート


8月14日の出資締め切りおよびプロジェクト開始確定から2ケ月弱、製造工程に関する最初のアップデートが入りました。伝えられた内容はおおよそ以下の通り。
We want to update everyone that the tooling process has started. As this is just a quick update to report what’s happening with the project, we will release a more detailed update about the whole manufacturing process. 
加工工程がスタートしたことを皆さんにお知らせします。ただ、これはこのプロジェクトで何が起きているかの単なる速報というだけですので、今後製造工程の全体像については改めてお知らせします。 

当初のスケジュールでは10月初旬にはtooling/加工は終わっている予定のようなので、そこからは若干遅れているようではありますが、この段階ではそれ以外の問題は特に報告されていません。


2015年10月14日 深センの工場にある製造ラインの詳細レポート


ZNAPSの加工に関する詳細レポート。
出典:KickStarter ZNAPS project page

このアップデートでは、興奮した様子で工場の写真と加工の詳細が公開されました。この段階でも、特に問題は報告されていません。


2015年10月27日 一部の部品完成を知らせるレポート
2015年11月6日 追加の部品完成を知らせるレポート
2015年11月20日 初回ロットの製品完成、負荷テストを開始する旨のレポート


これらに続いて、いよいよ問題を知らせるレポートが入ります。


2015年12月4日 バネピンの耐久性に問題があるとのレポート

ZNAPS did not pass the pogo pin durability test. The standard we aimed for was for the pogo pins to continue to work for a minimum of 5000 cycles. However, as you can see from the picture below, after about 2000 cycles, no electric current is detected passing through the pogo pins. This means that ZNAPS may stop working after you’ve snapped and unsnapped it about 2000 times. Actually, the pogo pin suppliers ensured us that their pogo pins can withstand at least 8000 cycles of use, so this was certainly an unforeseen mishap. We performed the same test on twenty ZNAPS from the first batch and received similar results. 
ZNAPSはバネピンの耐久性試験の結果、不合格となりました。我々が想定した基準は最低5000回の着脱に耐えることでしたが、2000回を過ぎたあたりからバネピンが電流を通さなくなってしまいました。つまり、2000回着脱するとZNAPSが壊れてしまうということです。このバネピンのサプライヤーは最低8000回は使用できると約束していたので、これは想定外でした。20個の初期ロットZNAPSで試験した結果も、ほぼ同じものでした。 

部品サプライヤーが保証した耐久性が、実際のところそれに満たなかったという不測の事態。このあたり、モノづくりの難しさのひとつなのでしょう。

同レポートでは回避策も報告していて、これまた好印象。それは、バネピンのサプライヤーを変えるということ。しかしながら、同時に製品の出荷が50~60日遅れてしまう、というアナウンスもされました。


2015年12月21日 バネピン問題解決のメドがついたとのレポート
2016年1月26日 まもなく改善版の出荷がなされるとのレポート
2016年2月3日 300名のベータテスター向けに出荷がなされたとのレポート
2016年2月25日 ベータテスターからのレビューレポート


ここで、ベータテスターからのフィードバックを元に新たな問題がレポートされます。少なくないテスターから「充電中に突然接続が切れたりすることがある」や「マグネットの接続が弱く、何も触れていないのにケーブルが外れてしまう」といったもの。

However, among the users’ reviews, one general concern really stood out to us: functionality. Some users are worried that this might affect the stability during phone charging and data syncing. We also overlooked another big problem, which resulted in brittle magnets. This issue affects the durability of ZNAPS and the slivers of magnetic material may break off and become a safety hazard. To fix the newly surfaced issues and to improve ZNAPS, here is our plan of attack: to wrap a metallic band around the magnet to protect the magnet from breaking.But to further modify ZNAPS, we will need new tooling, which generally takes up to 4-5 weeks.
ここで、我々は大きな問題に直面しました。そもそも機能しないことがある、ということ。何名かのユーザーからは、充電やデータ同期の安定性に影響してしまうのでは、という懸念を頂きました。また、我々はもうひとつの大きな問題を見過ごしていました。マグネットが破損してしまう可能性がある、ということ。この問題はZNAPSの耐久性に影響してしまい、またマグネット周辺の銀メッキが破損し、安全面での事故につながりかねないということです。この問題を改善するためには、マグネットの周辺を金属のバンドで囲む必要があります。しかし、そのためには新たな加工が必要となり、おおよそ4~5週間かかってしまいます。

ここでプロジェクト発案チームは、大きな問いを出資者に投げかけます。

So here’s the big question: is the current ZNAPS good enough for you?

さて、みなさんに質問です。現在のZNAPSに、みなさんは満足しますか? 

ここで出資者には、Google Docsを用いて作られたアンケートフォームのリンクが送られました。
シンプルに「このまま出荷するか?改善を望むか?」というもの。

そして次のレポートで、その結果が報告されます。


2016年3月3日 アンケート結果のレポート

このポストを書いている前日のレポートです。わずか1週間の間に、14,350名の方がアンケートに回答したそうです。その結果は、以下の通り。

ZNAPSを再設計すべきか?のアンケート結果。
出典:KickStarter ZNAPS project page

なんと95%の出資者が「遅れてもいいから作り直してほしい」という回答でした。その回答の声は、単なる「購入者の声」ではなく「支援者のもの」という印象です。

I'm tired of waiting to be honest, so instead of getting the products not so perfect, I rather wait for more longer so that I won't receive the products that I kick-started with disappointment. So make sure you guys/team fix those flaw and don't let we backers down.
正直なところ、もう待つのには疲れたけれど、未完成な商品を受け取って落胆するくらいならもう少しくらい待つよ。
 I dont want a crappy not lasting product, especially after waiting so long, I can wait another month 
これだけ待って、なお短命な商品なんて欲しくないよ。あと1ヶ月くらい待てるさ。
Quality of the end product and delivering what is ultimately what you are proud of should be your priority, as long as you keep us up to date with progress, we can be patient with assurance what we are getting is the best possible product. 
最終製品の品質や、製造者の皆さんが自信をもって送り出せるものを作ることが一番大切なことだと思います。進捗状況を適時報告してくれる限り、私たちは考え得る最高の商品を手に入れられるんだって信じて待てるから、待つよ。

これらの回答はプロジェクトチームから抜粋されたものなので統計的に大多数の人たちがこう考えていたわけではないと思いますが、それでも何人かの出資者がプロジェクトチームを信頼していることが伺えます。


結論


こうした回答があったことは、プロジェクトチームをどれだけ勇気づけたか想像に難くありません。このあたりが、単なる商品売買とは違う「クラウドファンディングの醍醐味」かな、と思います。


一方で、ベータテストの段階に来てはじめて発見される問題がある。ソフトウェアのプロジェクトであれば、さほど手戻りなく修正できるような問題が多いでしょうけれど、ZNAPSのようなハードウェア、モノについては再加工、再製造、部品変更など大きな手戻りが発生し、1ヶ月という単位でリリースが遅れていく。そして、その多くは設計段階では見通せない。

モノづくりの難しさを垣間見た心境です。



さて、このプロジェクトの「その後」については、また別途ブログにまとめたいと思います。私自身、このように製造者が出資者とともに作り上げたプロダクトによる体験がどのようになるか、とても楽しみです。