Under Armour Record Equipped - センサー内蔵スマートシューズを試してみた
着眼点は面白いと思うんですが…。
Under Armourのセンサー内蔵シューズ、Record Equippedシリーズ 出典:Under Armour社Webサイト |
昨今は様々な用途のウェアラブルデバイスがありますが、その中でもエクササイズトラッキングは最も分かりやすいウェアラブルデバイス適用例のひとつです。自転車、ゴルフ、ランニング、ヨガ、などなど。
アパレル界隈でもアスレチック(Athletic exercise)とレジャー(Leisure)を組み合わせた「Athleisure」という造語のカテゴリが存在するくらい、運動をレジャーとして楽しむ人たちが増えているようです。そのくらいカジュアルに運動を楽しむ層には、本気でタイムやスコアを狙うまで行かずとも、自分のパフォーマンスがどの程度で、周囲の友人と比べてどうなのか、を定量化するニーズというのは少なからずあるように思います。
そんな市場環境の中で最近急激に伸びているブランドがUnder Armour。スポーツアパレルブランドとして1996年に立ち上がり、今では米国の同カテゴリでAdidasとNo.2を争う立ち位置まで急成長(リンク先はFortuneの記事)しています。
(ちなみにTopはNike。2015年にUnder Armourも一度No.2になったようですが、その後またAdidasに抜かれたようです)
さて、そんなUnder Armour社が2017年1月にセンサー内蔵ランニングシューズ Record Equipped ラインの新シリーズを発売しました。早速入手し、3回ほど装用して走ってみましたのでレポートしてみたいと思います。
何がスゴイの?
足の甲部分に、センサー内蔵であることを示す Record Equipped ロゴがあります。 センサーは右足側の靴底部分に入っているとのこと。 |
私が入手したのは Under Armour Record Equipped シリーズの第3世代、Europa RE(たぶんエウロペ アールイーって読む)、税抜き$160です。第3世代の中では最も重い(約10oz、約280g)ものの、ソールのクッション性が高く長距離ラン向けっぽいモノ。
このシューズのスゴイところは
- Bluetooth対応で、Under Armour社が買収で手に入れた MapMyRun というスマートフォンアプリと連携しデータ分析ができる
- 6軸センサー内蔵で、ペースやケイデンスといったデータが取れる
- センサーのバッテリーはシューズそのものの寿命(400マイル:詳細後述)より長いので充電不要
と謳われています。ちなみに取得できるデータについては、私が持っている Garmin社のランナーズウォッチ Forerunner 235 と FootPod の組み合わせでも全く同じもの。ってことで、これ自体は別に新しくない。
もう一つは、これはシューズ側の機能ではなくスマートフォンアプリ側の機能ですが、「ワークアウト前に6回ジャンプすると、今日どのくらいの強度のワークアウトをするべきかを教えてくれる」機能があること。
ジャンプテストのガイド。滞空時間と接地時間からスコアリングしてくれます。 |
…この時点で何だかシューズそのものに新しさはないことがお分かり頂けるかと思いますので…先に結論をまとめてしまいましょう。
結論:オススメできるか?
ハッキリ言います。正直オススメできません。
このシューズを買うくらいならセンサーなしバージョンを$30安く買って、他の方法でランニングデータ集めた方がいいです。
続いて、こちらがスマートフォンなしで走った時のもの。
距離、時間、ペース、推定カロリーのみの取得で、ケイデンスと標高差が省略されています。この2つはGPSがないと取得できないということなのでしょうか?(ケイデンスはトータルなら取れそうなモノですがねぇ…?)
次に、ジャンプテスト機能を見ていきます。まず最初に「5日以内に3回のテストを行い、ベースラインを制定しましょう」と言われます。
ベースラインは個人差あるのでしょうが、このくらい事前にモニター使ってデータ集めて一般的な標準値を最初に持っていてほしいなぁ(後から個人ごとにキャリブレーションするにせよ)とは思いますが、難しいんですかね。
ジャンプテストの前に、「筋肉の疲れ具合」「エネルギーレベル」「睡眠の質」の3項目を10段階で自己評価するように言われます。この数値もジャンプスコアに影響しているかどうかまでは、まだ分かっていませんが。
その後、その場で6回ジャンプすると以下のようにスコアリングしてくれます。
これを3日に分けて行うことでベースラインが制定されます。制定後、4日目にジャンプテストした結果がこちら。
…で、この情報が分かったところで俺はどうすればいいんだ?というのが良く分からない。結局、ここよね、大事なのは。中くらいって具体的にどのくらい?というのと、提案通りにしたところでどんないいことがあるの?というのが良く分からんのです。So what?
続いて、払うお金に見合う価値があるのか?という点について見てみます。
Record Equippedシリーズは、最も軽量な Velociti モデルが$140(税抜き)、 Gemini と Europa が$160です。ランニングシューズとしては少々高いけれど高すぎるというほどでもない、という金額ですが、気になるのがその寿命。
(センサーなしバージョンはコチラ)
良い点:
- ランニングシューズとしては良い。クッション性高く疲れにくく走りやすい(センサー関係ない)
- アプリとの接続までのガイドは分りやすい(センサー関係ない)
イマイチな点:
- MapMyRunアプリのデキが悪い。StravaやFitbitの方が使いやすく分かりやすい
- スマートフォンを持って走らないと全てのデータが取れない。Garmin Forerunnerなら腕時計だけで走って、後から同期してもすべてのデータが取れる
- シューズ充電不要とのことだが、$160のシューズの寿命が400マイルって短すぎ
- ウリであるJump testも、推奨運動強度を教えてもらったところでイマイチ役に立たない
結論:
- シューズとしては良いが、ランニングデータ収集の面では全体的な使い勝手、コストパフォーマンス、得られるデータ全てにおいてGarminの方がいい
…とまぁ、ざっくり言ってしまうとこんな感じです。ランニングシューズとしては良いモノですが、スマートシューズとしての私の評価は全然ダメです。こんなんでスマートと呼ぶな、と言いたくなります。
結論だけ分かればよい方はここまで読めば大丈夫です。以下、各機能や仕様を細かく見ていこうと思います。
ワークアウトトラッキング機能
この機能は、スマートフォンを身に着けてリアルタイムトラッキングしながら走った場合と、スマートフォンを身に着けずに走った場合とでトラックできる情報に差があります。
まずは、スマートフォンとともに走り、MapMyRunを起動してリアルタイムトラッキングした場合がこちら。
まずは、スマートフォンとともに走り、MapMyRunを起動してリアルタイムトラッキングした場合がこちら。
Europa REとMapMyRunを接続し、リアルタイムにトラックした場合。 左側の上部は走ったルートがGoogle Mapsを使って表示されます。 |
左側のスクリーンショットにある通り、記録できる情報は 距離、時間、ペース、ケイデンス、推定カロリー、標高差の6つ。情報量はGarminやFitbitと大差ありません。
右側がペースを時系列で表示したもの。最大ペースがマイル2分とか、あり得ない数字が出ているのはご愛嬌。GPSがGalaxy S6のもので非常に頼りないのでここは仕方ないか(UnderArmourのせいではない)。
右側がペースを時系列で表示したもの。最大ペースがマイル2分とか、あり得ない数字が出ているのはご愛嬌。GPSがGalaxy S6のもので非常に頼りないのでここは仕方ないか(UnderArmourのせいではない)。
続いて、こちらがスマートフォンなしで走った時のもの。
Europa REだけで走り、帰宅後にSyncした場合。 情報量が減ってますね。 |
距離、時間、ペース、推定カロリーのみの取得で、ケイデンスと標高差が省略されています。この2つはGPSがないと取得できないということなのでしょうか?(ケイデンスはトータルなら取れそうなモノですがねぇ…?)
さらにペースも、総走行距離と時間から割り出して計算したもののようで、時系列の推移などは取れません。
なお、このときはGarminのGPSで測定した走破距離と0.2マイルしか差がなかったので、距離計測の精度は充分と感じます。
(おそらく身長から割り出したストライドと歩数で掛け算していると思われる)
Garmin Forerunner 235なら、Europa RE+スマートフォンの場合と同等の情報が取れる上にGPS感度がスマートフォン頼りのEuropa REが若干不利。Garminに軍配が上がります。
私の本命、ジャンプテスト機能
ジャンプテスト前。動画でジャンプの仕方を見せてくれるのは親切で分かりやすいです。 |
次に、ジャンプテスト機能を見ていきます。まず最初に「5日以内に3回のテストを行い、ベースラインを制定しましょう」と言われます。
ベースラインは個人差あるのでしょうが、このくらい事前にモニター使ってデータ集めて一般的な標準値を最初に持っていてほしいなぁ(後から個人ごとにキャリブレーションするにせよ)とは思いますが、難しいんですかね。
ジャンプテストの前に、「筋肉の疲れ具合」「エネルギーレベル」「睡眠の質」の3項目を10段階で自己評価するように言われます。この数値もジャンプスコアに影響しているかどうかまでは、まだ分かっていませんが。
その後、その場で6回ジャンプすると以下のようにスコアリングしてくれます。
滞空時間、接地時間を元にスコア化。 実はこの時ミスで5回しか飛ばなかったのですが、ちゃんとスコアリングしてくれました。 |
これを3日に分けて行うことでベースラインが制定されます。制定後、4日目にジャンプテストした結果がこちら。
とりあえず中くらいに攻めてみたら、という提案。 …役に立つのやら立たないのやら…? |
…で、この情報が分かったところで俺はどうすればいいんだ?というのが良く分からない。結局、ここよね、大事なのは。中くらいって具体的にどのくらい?というのと、提案通りにしたところでどんないいことがあるの?というのが良く分からんのです。So what?
コストパフォーマンス
続いて、払うお金に見合う価値があるのか?という点について見てみます。
Record Equippedシリーズは、最も軽量な Velociti モデルが$140(税抜き)、 Gemini と Europa が$160です。ランニングシューズとしては少々高いけれど高すぎるというほどでもない、という金額ですが、気になるのがその寿命。
充電不要を謳う中で「靴の寿命より長くバッテリー持つよ!」と語り(左側上段)、 その後「寿命は400マイルね!」と(同、下段)。 出典:Under Armour社Webサイト |
シューズの寿命として400マイルって短すぎないですか??
例えば私は、平均すると週に30マイルくらい走っています。そのペースだと、実に3ヶ月で寿命を迎えてしまう??
Europa RE を買う前に履いていたシューズは半年以上使って、しかもランニング以外の普段履きにも使ってまだまだ使えそうですが…。
確かに靴を脱いでいると自動的に接続が切れることから、履いていない時にはセンサー側のバッテリーを使わないよう工夫されていることは伺えます。しかし、当然ながらセンサー側のバッテリーが切れたら、スマートではない、ただのシューズ。スマートでいられる時間がたった3ヶ月で、その後は新しいシューズをまた$160とかで買わなければならない。
…それなら、再充電可能なGarmin(約$320)+電池交換できるFootPod(約$60、電池は半年持つ)の方が長く使えるし、トータルコストは安い。私の使い方なら。
…と、まぁ、なんだか酷評してしまいましたが、結局のところ靴に入れようがメガネに入れようが、搭載しているセンサーは単なる6軸センサー。そのセンサーから取得できるデータは、そんなに差がないんだな、という当たり前のことでもあります。
そして、現状Under Armourも、Garminも、データとそのデータを元にした事実としての情報くらいしか表示できていない。つまり、そこにあんまり付加価値がないように思います。
データ計測して、ペースとかパフォーマンスを測定して。
で、そのあとどうするの?どうすればいいの?
この、ユーザーとしては当たり前の質問に答えられるようなデバイスなりアプリなりサービスなり体験なりにしていかないと、普及しないし、それだけのために万人は$150とか2万円とか払わないだろうな、と思います。
その昔、私が経営コンサルタントをしていた時に、とある先輩からこんなことを教わりました。
この教えの文脈は、もちろん経営コンサルタントとして如何に価値のある仕事をするか、というものでしたが、これってウェアラブルデバイスやセンサーにも同じことが言えますよね。
ランニングのデータを集め、分析してペースやケイデンスを出す。でも、それだけではランナーはあまり嬉しくない。
例えば、フルマラソン3.5時間(サブ3.5ランナー)目標の人であれば、世間一般のサブ3.5ランナーのペースやケイデンス、パフォーマンス指標と比較して自分はどうなのか?どういうことを意識すればその差が埋まるのか?そうした示唆を提示することにこそ、価値があるように思います。
Fitbit、Garmin、Strava、Under Armourと使ってみましたが、どれもまだそのレベルには達していない。ウェアラブル、まだまだこれからですな。
例えば私は、平均すると週に30マイルくらい走っています。そのペースだと、実に3ヶ月で寿命を迎えてしまう??
Europa RE を買う前に履いていたシューズは半年以上使って、しかもランニング以外の普段履きにも使ってまだまだ使えそうですが…。
確かに靴を脱いでいると自動的に接続が切れることから、履いていない時にはセンサー側のバッテリーを使わないよう工夫されていることは伺えます。しかし、当然ながらセンサー側のバッテリーが切れたら、スマートではない、ただのシューズ。スマートでいられる時間がたった3ヶ月で、その後は新しいシューズをまた$160とかで買わなければならない。
…それなら、再充電可能なGarmin(約$320)+電池交換できるFootPod(約$60、電池は半年持つ)の方が長く使えるし、トータルコストは安い。私の使い方なら。
まとめと学び
…と、まぁ、なんだか酷評してしまいましたが、結局のところ靴に入れようがメガネに入れようが、搭載しているセンサーは単なる6軸センサー。そのセンサーから取得できるデータは、そんなに差がないんだな、という当たり前のことでもあります。
そして、現状Under Armourも、Garminも、データとそのデータを元にした事実としての情報くらいしか表示できていない。つまり、そこにあんまり付加価値がないように思います。
データ計測して、ペースとかパフォーマンスを測定して。
で、そのあとどうするの?どうすればいいの?
この、ユーザーとしては当たり前の質問に答えられるようなデバイスなりアプリなりサービスなり体験なりにしていかないと、普及しないし、それだけのために万人は$150とか2万円とか払わないだろうな、と思います。
その昔、私が経営コンサルタントをしていた時に、とある先輩からこんなことを教わりました。
データを集めて分析すると情報になる。情報を集めて分析すると示唆(インプリケーション)になる。示唆のない分析に価値はない。
この教えの文脈は、もちろん経営コンサルタントとして如何に価値のある仕事をするか、というものでしたが、これってウェアラブルデバイスやセンサーにも同じことが言えますよね。
ランニングのデータを集め、分析してペースやケイデンスを出す。でも、それだけではランナーはあまり嬉しくない。
例えば、フルマラソン3.5時間(サブ3.5ランナー)目標の人であれば、世間一般のサブ3.5ランナーのペースやケイデンス、パフォーマンス指標と比較して自分はどうなのか?どういうことを意識すればその差が埋まるのか?そうした示唆を提示することにこそ、価値があるように思います。
Fitbit、Garmin、Strava、Under Armourと使ってみましたが、どれもまだそのレベルには達していない。ウェアラブル、まだまだこれからですな。