ランニングトラッカー SHFT を試してみた
取得できる情報量はピカイチ、ですが…
SHFTポッド。1つ単独、または2つセットで使用します |
せっかくランニングを趣味にしているので、ランガジェットを色々と試してみているわけですが、ある日Kickstarterのサイトをぼんやり眺めていた時に見つけたのがこのSHFT Oneです。
当初はSHFT IQと呼ばれ、センサーを元にしたデータを元にバーチャルコーチがランニングの改善アドバイスをリアルタイムでやってくれる、との触れ込みでした。ところがクラウドファンディングが成立してから2ヶ月後、支援企業の倒産やハードウェア設計の見直しなどが必要となり、キャンペーン開始当初に説明された商品とは少々異なるものが届きました。
具体的には当初約束されていた以下2つの機能が削除された形です。ま、正直言うと出資した金額なりかな、とは思います。
- スマートフォンなしで単独で走れる → スマホなしでは測定できなくなった
- AIを元にしたランニングアドバイス機能 → おそらく定型文のみのアドバイスに
ここではランニングトラッカーとしてのSHFTを他のトラッカーと比較する形で評価してみつつ、このあたりのクラウドファンディングプロジェクトの経緯も振り返ってみようと思います。
製品概要
SHFT OneのポッドとUSB充電ケーブル |
SHFTは、カンタンに言うとこんな製品です。
- ひとつのポッドだけで使う場合、右足のシューズにクリップする
- 二つある場合、ひとつとシューズに、もう一つを上半身にクリップする(取得するデータが増えるようです:後述)
- GPSは搭載しておらずスマートフォンのものを利用
- スマートフォンとBluetoothで接続し、専用アプリとデータ連携
私が持っているランニングトラッカーの中では、見た目は最も良いですね。エヴァンゲリオンのインタフェース・ヘッドセットを彷彿させます。
類似製品との比較
機能を比較してみると、こんな感じです。
SHFT One | Garmin Footpod | JINS MEME (RUN NEXT) | |
---|---|---|---|
スマホなしラン | × | ○ | × |
GPS | × スマホ |
▲ ウォッチ |
× スマホ |
ケイデンス測定 | ○ | ○ | ○ |
着地強度 | ○ | × | ○ |
接地・滞空時間 | ○ | × | × |
接地ポジション | ○ | × | × |
ボディバランス、ブレ | ▲ 要2ポッド |
× | ○ |
接地・離地時の足の角度 | ○ | × | × |
バッテリー | 充電式 | ボタン電池 | 充電式 |
値段 | クラウドファンディング: $59 現在: $199 |
単体: 実売$50前後 ただし動作にはGarmin watchが必要 |
JPY 19,000 約$175 |
色々と取れる情報、取れない情報ありますが、まぁ個別それぞれの数字を見たところでランニングパフォーマンスが改善するわけでもなく、これらの数字をもとに「どうすればよいのか」ってのが一番大事だったりします。
以下、このあたりを中心にSHFT Oneのエクスペリエンスを見ていきます。
以下、このあたりを中心にSHFT Oneのエクスペリエンスを見ていきます。
SHFT Oneで測定できるメトリクス
SHFT Oneを靴に装着し、専用アプリを立ち上げた状態で走ると、以下のようなメトリクスを取得できます。
SHFT Oneアプリで測定できるメトリクス一覧 |
メトリクス詳細。左からLanding position, 接地時間、滞空時間、着地時の足の仰角、離地時の仰角です |
この中で面白いな、と思うのがLanding position、足の裏の接地ポジションです。体格や筋力にもよるようですが、一般的に「ヒールストライク(=かかと着地)」はランニング中のブレーキになり、理想的には「ミッドフット(=母指球着地)」が良いと言われているそうです。この指標は、ランニングパフォーマンスの改善に直結しそうな気がします。
実際に私がミッドフット着地を意識した場合と、あまり意識せずに走った場合の比較をスクリーンショットでどうぞ。
左が無意識、右がミッドフット着地を意識。 無意識の場合、かなりの比率でかかとで着地していることが分かります。 |
実際、右の走りをした翌日はふくらはぎの筋肉にハリが残り、普段使っていない筋肉を使って走ったことがありありと分かりました。また持久力は分かりませんが、ミッドフット着地をする方が、よりスピードに乗れる印象です。ハーフマラソン等の中距離であれば、こちらの方がよさそうだな、という感触でした。
トレーニングプログラムは自分なりに別で考える、あるいはコーチ等に頼るとして、そのパフォーマンス測定としてはなかなか良いのではないかと思います。
メトリクス以外の便益は? - クラウドファンディングプロジェクトの失敗
このSHFT、一番最初にKickstarterのプロジェクトが立ち上がった際にはSHFT IQという名称で、そのショルダーコピーと短い説明も以下のようになっていました。
Become A Better Runner With Your Virtual Coach
SHFT IQ is the world's first virtual running coach with Artificial Intelligence. SHFT IQ will help you run better and faster. #RunRight
バーチャルコーチとともに、より良いランナーを目指しましょう - SHFT IQは、世界初のAIを使ったバーチャルランニングコーチです。SHFT IQで、より安全に、速いランナーを目指しましょう、といったような意味合いでしょうか。
つまり、単なるメトリクス測定デバイスとしてではなく、AIを使った(今やソフトウェアなら何でもかんでもAIを名乗る時代ですね…)バーチャルコーチ、が提供対価でした。
しかし、このプロジェクト、紆余曲折があり、最終的に私の手元に届いたものは残念ながらAIなどとは程遠い「測ったメトリクスを元に、良いとされる基準との乖離を説明する」だけの、よくあるサービスになり果ててしまいました。
紆余曲折とは、端的に説明すると以下のような事項です。
- クラウドファンディング成立後、その枠外で資金の過半を提供していた親会社が倒産
- 資金供給がままならなくなり、AIを使ったバーチャルコーチの開発が頓挫
- クラウドファンディングプロジェクトとしては、いったんAIコーチ機能を省き、メトリクス測定機能のみを提供する結論に至る
- しかも当初はセンサー単体ですべてのメトリクスを測定する想定だったが、最終的には2つないと全てのメトリクスを測定できないことになった
…まぁ、クラウドファンディングの常ではありますが、こうしたリスクは発生しますな。
しかも上記の比較表に書いた通り、クラウドファンディング段階では$59だったものが現在は$199と、実に3倍以上の値段に。いかに初期の見通しが甘かったか(あるいは資金供給源の倒産インパクトが大きかったか)ということでしょうか。
最終的に、$59の出資をした人には SHFT One という単体機能制限版が届けられ、追加で$199を支払うと2つのセンサーで当初計画されたメトリクスが測定できる、というところに着地しました。
で、オススメ?
さて、ではこのSHFT、ランナーの皆さんにオススメできるか、というと…
正直、現在の市場価格 $199 は高すぎると思います。
出資者限定のメール案内では、機能制限版のSHFT Oneは希望売価格 $119 で発売予定、とアナウンスされていましたが、現在SHFT社のサイトでは $199 のSHFT Proしか販売されていません。
SHFT Oneがどうなったのか、まだどこにも説明がありません。さらにクラウドファンディングプロジェクトもいったんはSHFT Oneの出荷をもって完了した形になっており、その後この会社の資金供給がどうなったかなど、不透明な点も多いです。
従って、私が現在利用しているサービスも、いつまで提供が保証されるか分かりません。このような状態なので、とてもオススメできる状態ではない、というのが正直なところです。
一方で、走るたびに各メトリクスの「理想値」と自分の値の乖離を測定してくれて、次にどうすればよいかをカンタンに文字ベースでアドバイスしてくれているので、このアドバイス部分がAIなりなんなりでもっと洗練されていけば、あるいは…という気はします。
SHFTアプリのランニングコーチレポート。その日に注目するメトリクスが自動的に設定され、その目標値と、測定値の乖離具合を説明してくれます。この部分がもっと洗練されると、金額に見合うサービスになっていくようにも思います。 |
今後のSHFTサービスの改善に、期待しないで待つとしましょう…。