Tesla Model Y/3と、同クラスEV/PHV/HVの所有コストを比較してみた

直接比較はなかなか難しい



Tesla Model 3 (出典: tesla.com



我が家は渡米直後にクルマ2台を中古で入手し、10年経つ今まで同じクルマに乗り続けてきました。しかしながらどちらも古さが見えてきていています。


過日、私がメインで使用している方のクルマのブレーキパッドおよびディスクに異常が見つかり全交換となったのですが、その費用が $860。10年選手、総走行距離16万kmを超えるクルマに今後どれだけメンテナンス費用をかける価値があるんだろう…?と疑問に思い始めました。

また私は仕事柄レンタカーの利用が多く、毎月のように多様なメーカーのクルマに乗るんですが、やはり新しいレンタカーと自分のクルマの安全性関連の装備を比較するとだいぶ劣る状況なので、クルマの買い替え熱が高まってきました。


以前から、なんとなーくTeslaに興味があり、過去に一度レンタカーでModel Yを運転した際の体験も非常に良く「良いクルマだよねフツーに」という印象もあったので、それを軸に色々と話を聞いていたのですが、以下のような意見を良く聞いていました。

  • Teslaはとにかく保険が高い
  • Teslaは修理費なども高いようだ
  • Tesla Model 3より安いEVやPHVもあるよね
  • トータルの維持費を考えるとPHVが一番じゃない?

さて、こうなると定量的に比べたくなるのが私のサガ。試算モデルをスプレッドシートで作成してみることにしました。


※2024年1月30日追記:車重の違いによるタイヤ摩耗の早さ(EVは重い=摩耗が早い)をコスト試算に組み込む改訂を行い、本文を刷新しています。

比較対象

今回、私が持つ2台のうち小型セダンを手放すことにし、その代替となるクルマを Electric Vehicle (EV) / Plug-in Hybrid Vehicle (PHV) / Hybrid Vehicle (HV) から選定することにしました。Model 3を軸に、それと同クラスのモデルを調べてみると、以下のようなクルマが見つかりました。


1. Chevrolet Bolt

米国内で販売されているFull EVで最も安価なモデルです。Tesla Model 3より2割ほど安く手に入りますが、連続航行距離やサイズも同じくらいダウンサイズします。
Chevrolet Bolt EV (出典: chevrolet.com)

2. Toyota Prius Prime SE

言わずと知れた世界初のハイブリッド車のブランド、Prius。今回はその中からFull EVに最も近いPlugin HybridであるPrius Primeを候補にします。
Toyota Prius Prime SE (出典: toyota.com)


3. Honda Accord Hybrid

こちらはPluginでは「ない」Hybrid車代表。価格帯的にTesla Model 3と同等のセダンタイプとして候補に選びました。
Honda Accord Hybrid (出典: hondanews.com)



そしてこれらの調査を進めていくと、Tesla Model 3は保険料がだいぶ高く、それを加味するとModel Yも検討圏内に入ってくることが分かったため、Tesla Model Yおよび3を軸に、これら3モデルを加えた5モデルで比較してみます。

Tesla Model Y (出典: tesla.com




結論

いつものことですが、結論を先に書きます。

  1. 経済性重視なら圧倒的にChevrolet Bolt。ただし1回の充電での航行距離や車内空間サイズなども最も小さい
  2. Model 3は保険料が高くなる傾向があり、Model Yのほうが保有コストは安くなる
  3. どれを買っても、年間維持費は私が現在持つクルマより安くなる
  4. 保険料の見積もりは重要、この金額で3年保有コスト、6年保有コストは大きく変わってくるので、可能な限り購入前に見積もるべし


試算モデルのスプレッドシートのスクリーンショットをこちらに貼り付けます。



スコープは以下です。

  • クルマはどれも3年リースを想定(EVやPHVはまだ進化の過程にあり、3年後には目覚ましく「何か」が変わっている可能性が高い;バッテリー性能とか)
  • モデルはすべて「どノーマル」前提、追加費用のかかるオプション装備などは一切なし(TeslaのFull Self Drivingなどもなし)
  • カリフォルニア州での購入を前提とする
  • DMV登録費用を含む(新車で同価格帯の場合ほぼ変わらないが、旧車との比較で大幅な差が出る。ただし3年間は毎年同額と想定した)
  • EV or PHVの場合、私が利用する電力会社のEVオーナープランが利用でき、家の電気代が安くなるのでその得する差額分は比較に含めた



解説

では、表をひとつずつ見ていきましょう

1. 前提






セクション1は前提枠です。
  • 年間走行距離は想定する年間走行距離、私の場合はおよそ12,000マイル(18,000キロ)としていますが、通勤に使用せず街中の買い物のみ等の場合は8,000などでも良いでしょう
  • ガソリン価格(ガロン単価)はガソリンスタンドで給油する際の単価を入れます。ここは記事執筆時点の私がよく利用するガソリンスタンドの価格を適用しました
  • ディーラーマージン率はTesla以外のクルマについてメーカー希望小売価格に販売店がどれだけ上乗せするかを入れています。試算時に私自身がディーラーを訪問して得た見積もりをベースに設定しています
  • 売上税・使用税率(いわゆるSales tax / Use taxですね)はカリフォルニア州でクルマを購入する際に発生する税金の税率を入れています。実際にはその他諸経費などもかかりますが、どの車を買っても条件は同じと想定し、概算で入れています
  • 売却時ディーラーマージン率は、私が運転したクルマを中古車として売却した後に、中古車ディーラーがどの程度マージンを乗せるか、です。リセールバリューを評価する際に「現在中古車として売られているクルマの売価」を参照しており、そこから割り戻して「私が売る際の価格」を計算しています
  • タイヤ交換コストは、タイヤ4輪分全てを1回交換する際の費用です。値は私の過去の実績値(きわめて標準的な価格と思います)です
  • タイヤ交換マイレージは、何マイル走ったらタイヤ交換が必要になるか、という数字です。一般的には60,000マイルは持つそうですが、ここでは保守的に30,000としています
  • EVオーナー向け家庭用電気代下げ効果(EV2-A saving)は、私の家の2023年の月ごとの電気消費量を元に、電力会社のEVオーナープランの単価を掛け合わせ、現状と比較した数字を入れています。仮に2023年に私がEVを持っていたら、いくら節約できたのか?ということです。計算式は隣の「Home Elec. Bill」シートにあります



2. クルマの値段

続いてセクション2がクルマの値段についてです。



  • ベース車体価格はそのクルマの最も安い価格です。グレード(英語ではTrimと言うようです)が最も低く、有償オプションは全て省いた金額となります
  • 市場価格は、Tesla以外についてはディーラーマージンがあることを前提とし、その比率をかけています。TeslaはWeb上で見ている金額以上にかかることは(全てのクルマについてかかる販売諸経費およびDMV登録諸経費を除いて)ないようです
  • 税金等は税金と諸経費です。1の 売上税・使用税 の税率でみなしで処理しています
  • 現金購入時総支出額 がそれらをひっくるめて、クルマを現金一括購入するとしたら、の金額です

3. リース試算

セクション3はリース費用の試算です。単純化するためにリース期間は統一36ヶ月=3年とし、ディーラー直接のリースを利用した場合を想定して入れています。
(Teslaは24ヶ月 or 36ヶ月しか選べず、他のディーラーリースもだいたい36ヶ月のみのようです)



  • 月額リース料(36ヶ月)は、各社が提示する月額リース料です
  • 月額リース料(ディーラーマージン込)は、ディーラーマージンを含めたリース料です。Tesla以外はMSRPを前提としているため、ディーラーマージンがあった場合に月額リース料も同じ比率で増すと前提を置きました(実際には異なる可能性はありますが、大差ないでしょう)
  • リース期間(月)は読んで字のごとくで、全種36ヶ月で置きました
  • リース頭金はリース開始時に支払う金額です。Honda以外は$4,500、Hondaは選べなかったので提示初期値を置きました
  • 3年リース総支出額は、頭金と36ヶ月の月々支払い額の合計です

4. 維持費用

セクション4は、月額や年額でかかってくる保険料、ガソリンや電気代、DMVへの年間登録費用などの計算です。自宅の電気代節約効果分もここに含んでいます。ここから、私の現有車種Civicの比較が入ってきます。




  • 保険見積もり(月額)は月額の保険料、英語で言うとInsurance premiumです。TeslaはTesla社が提供する保険額を想定で入れており(私の知人のTesla owner数名にヒアリングした数字を入れています)、それ以外はいくつかのWeb見積もりで取得した金額のうち最安値を入れました(なお保険見積もりについては後ほど各社比較をします)
  • ガソリン燃費(Mile per gallon)は、PHV/HVについて、メーカー公称のガソリン1ガロンあたりの航行距離を入れています。私が所有するクルマについても、割と実感に近い数字です。英語では良くMPGと略しますね
  • 1マイルあたりエネルギーコストは以下から取得しています。
  • クルマの重量は読んで字のごとくで、最軽量モデルのカタログ情報(ポンド単位)をKgに換算しています
  • 重量比(対Civic)も読んで字のごとくです。Civicが「タイヤ交換マイレージ」を走った際に交換する費用の年額換算を100とし、そこからどのくらい年あたりのタイヤコストが増えるかを重量比例で換算しています
  • 年間エネルギーコストは、1マイルあたりエネルギーコストの数字に私の想定年間走行距離(1の1行目)を掛け合わせた数字です
  • タイヤ費用(年換算)は、1回のタイヤ交換にかかる費用(セクション1にあります)は30,000マイル走行後の費用で、1年10,000マイル走るなら1回の費用の1/3が年換算費用、というような形で換算した数字です。ここに重量比を係数としてかけています
  • 家庭用電気代下げ額 は、私がEVオーナープランを利用した際にいくら節約できるか、を入れています。Honda Accordは本プランの対象にならないため数字がゼロとなっています
  • DMV登録費用は、クルマの所有者が毎年払わなければならない登録料です。新しいクルマほど高いようですが、逆にモデル等は関係ないようです。これは古いCivicが有利

5. 3年および6年保有総コスト

セクション5は上記全てをひっくるめて計算した、3年 & 6年クルマに乗り続けた際の総支出額をまとめました。




  • 3年保有コスト総額(車体込み)が、クルマのリース価格や燃料、保険等々をひっくるめた数字です
  • 3年保有コスト(保険とエネルギーのみ)が、リース価格を除いた維持に必要な数字です。現有のCivicを維持するのとどちらが得か?という比較になります
  • 6年保有コスト総額6年保有コストはそれぞれ3年のものの6年バージョンです。リース期間を延長した場合の、仮想的な数字です(実際にはリース延長はあまりしないと思います;そもそも出来るのかしら?)


結論の、もう少し詳細な説明

と、いうわけで、大事なのがセクション5の数字となります。今回は3年後にまた新しいクルマのリースを検討するという前提で、3年保有コストで比較します。


まず私にとって一番の発見だったのが「この候補のどのクルマを買っても、現有するCivicに乗り続けるより維持費が安い」ことです。保険やDMV登録費用、タイヤコストの安さを加味したとしても、です。やはり電気代はガソリン代に比べて安いんですな…。






続いて車種比較ですが、当然のことながらChevrolet Boltが圧倒的に維持コストは安い。車体も安い、保険も安い、エネルギーコストも安いので当然です。キャンプに行ったり家具を買いに行ったりといった、積載量が必要な際にはレンタカーなりもう一台なりで済ませるからとにかく維持費が安いクルマを!ということならBolt一択でしょう





TeslaかPHV / HVか?については、当然ながらガソリン単価で結論が大きく左右されます。この試算はガロン$4.89で出していて、僅差ながらTesla Model 3と比べるとPrius Primeのほうが維持費が安いですが…↓






もしガソリン単価が$5.89になったとすると、以下となり、EVがだいぶ有利となります↓





一方で、ガソリンが$4.89のまま、電気代があがってTeslaやBoltの1マイルあたりのエネルギーコストが25%上がって5.5セントになったとすると、こうなります↓





想定ツッコミ


以下、試算モデルに対して想定されるツッコミと回答です。

クルマの色は検討しないの?

Teslaのクルマの色は、デフォルトのダークグレー以外はすべて有償オプションなんですが「もしかしてクルマの色によって保険料って違う?」という仮説のもと、少し調べてみました。


実際、保険の見積もり時にクルマの色は指定しませんでしたね。保険会社もそこまでは気にしていない=おそらく統計的な有意差はないのでしょうね。



ただし色はResale value、つまり中古車として売る際の価格には統計的に有意な差があるようで、なんとYellowが最も価値が下がりにくいという研究結果があるとのこと(リンクは銀行のchase.com)。今回私はリースを想定したのでResale valueは気にする必要がありませんでしたが、購入を検討されている方については、どの色がいくらで手に入るか、見ておいて損はないかと思います。



タイヤサイズは考慮しなくていいの?

Model Yの標準ホイールサイズは19インチ、対してModel 3は18、最安値のBoltは17。インチサイズが小さくなると当然コストも安いだろう…と思って平均価格を調べてみたところ、16-20インチのグループではさほど大きな差はない模様。参考記事

インチサイズよりもタイヤのグレードや特性、あるいは人によって異なる使い方・走り方による交換頻度のほうが維持費に与える影響が大きいと判断し、ここでは考慮から外しました。


カリフォルニア州の電気代、最近高くない?

電気自動車の1マイルあたりエネルギーコストの4セントちょっとという数字は、疑う余地があってもよさそうです。全米で見てカリフォルニア州の電気代は高いと思います(ガソリン代も高いですけど)。

おそらく4セントという数字は全米平均なので、カリフォルニアでは25%増しくらいで見たほうが良いのかもしれません。そう、それが比較の最後で実施した表です。それでもModel Yが勝ちます。


考察


上記の通り、経済性だけ見たら、以下の変動要素がどうなるかで結論がだいぶ変わってくるわけです。

  • 保険料
  • ガソリン代
  • 電気代

ガソリン代と電気代は今後どうなっていくか分かりませんが、少なくとも現時点では私にはガソリン代が下がっていく未来は見えません…電気については技術革新によりコストが下がる可能性もまだまだあると個人的には思います。少なくとも化石燃料のコストが下がる可能性よりは高いのでは?(あくまで個人の主観ですが)


一方で、各社それぞれにしかない良いところ、悪いところがあるでしょう。例えば…

  • Teslaのスーパーチャージャーネットワークはカリフォルニア州ではだいぶ頼りになる、ベイエリアであればチャージに困ることはほぼなさそう
    • 一方で他社は同じようにはいかなさそう
  • Toyotaなどはディーラー網、整備工場なども扱いなれており、何らか不具合が出たとしても修理費がかさむようなことはなさそう
    • 一方でTeslaはとかくメンテナンスコストが高い模様(それが保険料にも表れているのでしょう)
  • これだけ環境破壊が叫ばれている中、まだ化石燃料に頼るのか?という価値観の話しも無視できない

といったあたりです。価格差を見据えつつ、こうした定性的なところをどう評価するか、で意思決定するような形になるでしょうか。


保険、そう保険

なお本稿執筆時点で、私が今契約している保険のエージェントからの保険料見積もりが出ていません。そちらは家財保険などもお願いしており、家財やクルマの保険を同じ会社にすることで多少のディスカウントが期待できます。その結果が出て保険の最安値が出た段階で改めて試算を更新し、買う車種を決めようと思っています。



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