Appleのメールマガジンをアメリカ版と日本版で比較してみた

翻訳コンニャク

Appleさんから12/18に配信された、クリスマスギフトのオススメメールマガジン


日本で生まれてアメリカで仕事をしていると、翻訳する、ということが頻繁に起こります。そして、翻訳というのは単なる「言語の置き換え」ではなく、翻訳元の言葉が持つ文化的背景というか、概念というか、考え方というか、感じ方というか…(まぁ、それを「メッセージ」と呼ぶことにしましょう)を、翻訳先の言語で表現する行為である、ということを最近よく考えます。


私が「マーケティングコミュニケーションが比較的上手な会社」だと思っているAppleさんから、たまたま同じタイミングでアメリカ版と日本版でメッセージが同じなメールマガジン(英語で言うとNewsletterですな)を受信しましたので、その英語と日本語での伝え方の違いを細かく見てみようと思います。


ちなみに、送られたメールマガジンの全体像はこちらです。さてさて、みなさんはどんな風にご覧になりますか?

2015/12/18に配信された、クリスマスギフトをアピールする
Appleのメールマガジン。左がアメリカ版、右が日本版です。

1. 件名


メールマガジンにおける件名の重要性は、ここで改めて語るまでもないでしょう。さて、Appleさんはアメリカの商売のピークシーズン終盤において、どんなふうにギフト提案を表現しているのでしょうか。


英語:Just the right gifts, just in time
日本語:最高のクリスマスギフト。まだ間に合います。

英語は「Just」を2回使って、うまく言葉遊びをしていますね。「ズバリ正解!」「それ欲しかったんだよ!」的なギフトを、「まさに今!」という感じ。ジャスト。

一方で、日本語の方はちょっと平坦ですね。でも、iPhone 3GS以降「iPhoneにはね」という表現を日本語で使ってきたApple Japanさん、なんというか、クールな…落ち着いた…口調は一貫しているように思います。日本語には言葉遊びはないけれど、賢い、でも「クリスマス」「間に合う」というキーメッセージはきちんと入っているように思います。


2. キーラインメッセージ



次に、本文トップにある大きい文字の「キーラインメッセージ」。

英語:Last-minute gifts that seem anything but last minute.
日本語:とっておきのギフトを、今からでも用意できます。

英語は、ここでも言葉遊びをしていますね。「Last-minute」を上手に2回繰り返すことで「まだ間に合うよ!」というメッセージを強調しているように思います。

Last minuteとは「ギリギリ、直前」というような意味です。「I'm sorry for my last minute change - 直前に変えちゃってごめんね!」というような使い方をしますかね。

そして「Anything but - 全くもって~でない」を組み合わせることで「ギリギリのプレゼント、でも、きっとそうは見えないよ」というような意味を表現しているように思います。上手ですね~。


一方日本語は、こちらも平坦な印象です。淡々と、でもまだ間に合うよ、というメッセージを、シンプルに。件名と同じメッセージを繰り返し。


3. リード文


続いてリード文です。上のスクリーンショットの、少し小さい文字の部分です。

英語:The holidays are around the corner, so order now to make sure your Apple gifts will arrive in time.
日本語:クリスマスはすぐそこです。Appleのギフトを今注文すると、クリスマスに間に合うようにお届けします。

ここは少し解説が必要でしょうか。

アメリカでは、最近は「クリスマス」という表現を慎む傾向にあります。おそらく宗教的な背景でクリスマスを祝わない、祝えない人への気遣いなのでしょう。あくまで平等に、単なる休暇シーズンとして表現。でも、もちろん分かる人にはそれがクリスマスギフトだって分かる…という背景があります。

ですが、日本ではそんな気遣いは必要ないのでしょう、ストレートに「クリスマス」と言っていますね。これもシンプルに。

そしてアメリカ日本どちらも「まだ間に合うよ!」という、件名も合わせると3回目の強調。これがこのメールマガジンのキーメッセージだということが既に分かりますね。


4. 本文1: ギフトカード


続いてこのメールマガジンのコア部分、次につなげる本文です。



まだ日本ではApple musicが立ち上がっていないのでしょうか、Apple music gift cardが画像から削除されていますね。それはさておき、メッセージは以下のようになっています。

英語:Give them something they'd give themselves.
日本語:選べる楽しさを贈れます。

英語は、これまた言葉遊び。Them, they, themselvesと、theyの派生語が3回も登場します。むしろそれを除けば、give, something, give しかありません。スゴイですね…。

一方、こちらも日本語はいたってシンプル。ギフトカードを贈るというのは、要するにカタログギフトのようなもの。贈られた金額の範疇で、好きなものを買える。その体験を贈りませんか?というメッセージですね。



5. 本文2: Apple Store app


最後に、本文後半のApple Store app、つまりiPhone/iPadで使うApple謹製ショッピングアプリの紹介部分です。



こちらは、小さい文字の部分をピックアップしてみます。

英語:With the Apple Store app, it's easy to shop, compare, and read reviews. So you can check everyone off your list and check out quickly. 
日本語:製品を買う、比較する、レビューを読む。Apple Store appを使えば、そのすべてが簡単です。だから、あらゆる人へのプレゼンをすばやく選んで購入できます。

英語は、またしても言葉遊び。checkを2回使っていますね。
プレゼントを贈る人リスト(日本で言うと年賀状送り先リストのような感覚でしょうか)に完了チェックすることができ、チェックアウト(つまりお会計)も素早くできる、と。リストのチェック、チェックアウト、同じcheckを違う意味でうまく使っています。

一方日本語は、こちらはほぼ英語の直訳。少しヒネリがないようにも思いますが淡々と書いていますね。


結論



以上のように細かく見ていった結果、以下のようなことが言えるのではないかな、と思います。

アメリカでのAppleのコミュニケーションは、言葉遊びを交えてキーメッセージを伝えている。日本的な感覚で言うなら「クールな大喜利」といった感触でしょうか。
日本でのAppleのコミュニケーションは、ひたすらシンプルに。シンプルに出来ないところは「シンプルに直訳」。

日本の大喜利もそうですが、「うまい!」と言わせるにはそこそこ知性も必要です。様々な言葉を様々に組み合わせ、思いもよらないつながりを見せることで「座布団一枚!」になる。
アメリカにおけるAppleのコミュニケーションには、そういう知性を感じます。


日本のAppleについては、やはり「シンプル」に尽きます。
無駄を削ぎ落したシンプルさは、Apple製品のひとつの特徴でもあります。初代Apple TVのリモコンがその代表例でしょう。
そのブランド要素をコミュニケーションの中に織り込んで、おそらくアメリカ主導で決まっているであろうコミュニケーションを日本向けにローカライズしているように見受けられます。


伝えているメッセージは単一。プレゼンテーションは、ブランドコンセプトから外れない範囲でローカライズ。

こうした手法は、参考になる企業も多いのではないでしょうかね、というお話でした。


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