Nike Zoom Vaporfly 4% で本当に4%速くなるのか試してみた

Zoom Vaporfly 4%をついに入手!


Nike Zoom Vaporfly 4%。あまりの人気ぶりと生産の難しさから、品薄状態が続いています。
出典:Nike.comウェブサイトより

2017年夏のデビュー以来、米国のマラソンレースのみならず日本の箱根駅伝などでも驚異的なパフォーマンスを発揮し名前が売れているNike Zoom Vaporfly 4%。同年のニューヨークマラソンの男女両方の優勝者がこれを履き、またボストンマラソンにおいては男女上位6名のうち、なんと5名がこれを履いていた。またシカゴマラソンでは、15年ぶりのアメリカ人優勝者がこの靴を履いていたそうです。


ラボでの実験によれば、ランナーのパフォーマンスをおよそ4%向上させるというこの靴。大変な品薄状態で購入も難しく、定価$250にもかかわらずeBayでは$300~$400で出品されています。
一般的なマラソンシューズの価格の2~3倍もするこのシューズ、果たして本当にそれだけの効果を発揮してくれるのでしょうか?


幸運なことに、私はこのシューズを入手することができましたので、私が使用している他のシューズとの比較、および実際に履いて走ってみた結果をまとめてみたいと思います。


外観上は他のシューズと大きな差はなし


まずは外観上の比較から。比較対象は以下の通りです。



つま先側の反り具合の比較。左: Epic React、中: Vaporfly、右: Slingshot

まずはつま先部分から。こうして並べてみると、見た目上はさほど大きな差はないように見えます。いずれもつま先部分が良く反っていて、ランニング中の足の運びをスムーズにしてくれます。


かかと部分の比較。左: Epic React、中: Vaporfly、右: Slingshot

続いて、かかと部分。Slingshot(右)はソール部分がやや薄く、また触った感触もかなり硬いです。またかかとを包み込むようなプラスチックパーツがあり、ランニング中のホールド感を強めてくれています。

Epic Reactも同様に青い部分がかかとをホールドしてくれます。一方ソールはかなり厚いですが、こちらも指で押すと相応の硬さ。

最後にVaporflyですが、これが最もソール部分が分厚いです。また、写真は分かりにくいので入れていませんが、足を入れるインナー側で言うとVaporflyが最も高く、ともするとハイヒールのような高さがあります。


ソールの硬さには大きな差がある


さて、続いてソールの硬さ、弾力性について見てみます。厳密な比較ではありませんが、ソールに対して折り曲げる力(ランニング中に地面を蹴るときの変形)を手でエミュレートしてみました。

Epic Reactのソール
まずはEpic Reactです。つま先部分を地面に押し付けるようにしてみると、ほとんど曲がりません。ソールのフォーム自体は指で押すと少し沈み込むようなソフトなものなのですが、曲げる力に対しては弾力が強く、蹴るチカラが強く推進力に繋がるような印象です。


Vaporflyのソール

続いてVaporfly。こちらもかなり「硬い」印象です。ソールのフォームはEpic React以上に柔らかく、フワフワした感触ですが、弾力はEpic Reactより強く、まるで板のようです。実際、カーボンファイバーのプレートが複数枚入っているそうです。


Slingshotのソール

最後にSlingshot。こちらはNikeのシューズとは真逆で、ソールを指で押すと非常に硬い。一方、曲げる圧力に対しては非常に柔らかく、指の付け根のあたりでよく曲がるようになっています。


これらの差が実際のランニングパフォーマンスにどのように影響するのかはわかりませんが、少なくともNikeのシューズは「圧力に対しては柔らかく足への負担を和らげ、かつ曲げに対しては硬くバネのように働く、ということが言えそうです。


スペック比較:とにかく軽い!


続いて、各社Webサイトに出ているスペック情報を比較してみます。




シューズのスペック比較
Nike Epic React Nike Zoom Vaporfly 4% UnderArmour SpeedForm Slingshot
重量 8.75oz / 248g 6.5oz / 182g 7.5oz / 212g
Offset 10mm 10mm 7.5mm



重さについてはVaporflyが圧倒的。Slingshotと比べてあれだけかかとのソールが厚いにも関わらず、30gも軽くなっています。
Epic ReactとVaporflyはソールの厚さがほぼ同じ、かつオフセット(ソールの最も厚い部分と薄い部分の差)が同じであるにもかかわらず60gも軽い。このクッション性とバネ性を、この軽さで実現したのがVaporflyの凄いところなのでしょう。


なお履いてみた感触として、Epic ReactとVaporflyを比べてみると、Vaporflyの方がよりかかとが高く、前に重心がかかる印象であったことを付記しておきます。数字以上に前傾になりやすい印象です。



走ってみた結果:こいつは凄い…!


さて、御託はこのくらいにして、実際に履いて2回ほど走ってみました。その内容を、SHFTで測定した内容で比べてみたいと思います。
※SHFTでできることについてはコチラのポストを参照してください。


ラン1:6マイル、10kmほどのスピードランニング


まず、数週間前にEpic Reactで走った6マイルランと、最近Vaporflyで走った全く同じコースのランを比較してみます。

私は6マイルを走る際はスピード重視で、自分の心肺や脚の持ちをあまり考えずに走ります。

6マイルランのStrava比較。左がEpic Reactでのラン、右がVaporflyのラン。

Stravaの結果にある通り、マイルあたりのペースは 7:32/mi --> 6:58/mi と、7.3%速くなっています。


6マイルランのSHFT比較。左がEpic Reactでのラン、右がVaporflyのラン。


より顕著に差がでたのがSHFTで測定した数値です。上段は着地時の重心が足のどこにあったかを示しており、Epic React時には真ん中を中心にややかかと寄り、Vaporfly時はかかと着地はなく真ん中からわずかにつま先寄り、と、如実に差が出ました。

さらに興味深いのが、SHFT下段のG-landing normalizedの比較。同画面にある説明によれば、この数字は「足が地面に平らについた瞬間から、上に向かって発生する力の最大値を平準化したもの」だそう。感覚的には、地面を蹴って得られた推進力と言えそうです。

こちらはEpic Reactの3.8Gに対し、Vaporflyは何と倍以上の8.8G。ソールに織り込まれたカーボンファイバープレートの効果でしょうか、推進力が段違いです。


なお定性的なコメントを付け加えると、この6マイルランが私にとってVaporflyを履いた初めてのランで、足が進むままにペースを上げて走ってしまい、心肺が全くついていかずに途中で何度か小休止を余儀なくされました。強制的にハイペースで走らされた、という印象です。まぁ恐ろしい。



ラン2:8マイル、13kmほどの持久ラン


続いて8マイル、スピードよりは持久力重視、ペースを維持して走りきることを目的としたランの比較です。

8マイルランのStrava比較。左がEpic React、右がVaporfly。


こちらもペースで7:45/mi --> 7:13/miと、結果的にずいぶんスピードが出ました。走っている最中にはそんなに無理してスピードを上げた感覚はないのですが、結果的にスピードが出てしまい、心肺に大きな負担がかかる結果となりました…苦しかった。

なお、私の今までの標準ペースはだいたい 7:40/mi ~ 8:00/mi、フルマラソンは 3時間38分という記録なので、 7:13/mi というのは相当速いペースです。普段はこんなに速く走れません。


同様にSHFTの比較。左がEpic React、右がVaporfly。

そしてSHFTの比較も6マイルランの時と同様、半ば強制的にミッドフット着地となり、推進力は高い水準を最初から最後まで維持しています。


所感


…と、いうことで、ソールの硬さや柔軟性、ペースとSHFTの数字を見る限り、Vaporflyの特徴は以下のように言えると思います。


  • ソールのバネが推進力をアシスト、他のシューズより、より強い力で前に進むことが出来る
  • 結果としてスピードが上がりやすい
  • しかし、そのスピードを支える心肺能力と筋力を鍛えることは必須:この靴で強制的にそのレベルに引き上げられる
  • 着地もほぼミッドフットに強制的に変えさせられるため、ミッドフットに合わせた筋力をつけないとおそらく持久力が持たない


という感じではないかと思います。実際、Vaporflyで走るとヒョイヒョイとスピードが上がってしまい、少ない労力で筋力以上のスピードが出せますが、すぐに息が上がってしまいます。
脚の負担は軽減されつつも、心肺を鍛えないとその領域を維持できない、ということでしょう。しばらくインテンストレーニングをしてみようかと思います。


ところが…耐久性に問題あり!


では、この靴でしばらくトレーニングすれば、Vaporflyに最適化した脚と心肺が手に入り、実際に4%以上のパフォーマンス向上が見込めるのでは…と思うのですが、そうは問屋が卸してくれないようです。

こちらの記事によると、なんとVaporflyがその性能を維持できるのは100マイル、160kmほどまで。そのくらいになるとソール部分の気泡が抜けてしまい、バネ性やクッション性が劣化してしまうそうです。

100マイルなんて、ちょっと走りこんだら1~2ケ月しか持たない。それではこの靴を使ってのトレーニングなど望むべくもない…ということになります。

入手性が低い、価格が高いことに鑑みて、この靴をトレーニング用とするのはアマチュアランナーにとってはあまりに厳しい。



従って、Vaporflyをレース当日とその直前の慣らしの利用に限り、トレーニング時には重さやオフセットが似たNike Zoom Fly (Men / Women)を使うのが正しい流れとなるように思います。


Vaporfly 4%、確かに速く走れる靴ですが、とても万人向けとは言い難いですな…。私も本番用に温存し、トレーニングはNikeの別の靴でやろうと思います。

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