経営論連載Vol.1 - デザイン思考の3要素と昔のビジネスコンサルティングの限界
昔、コンサルタントだったことがありましてね
先日、ひょんなことから現役の経営コンサルタントである方と酒杯を傾けながらお話する機会がありまして。
その時に、最近いろいろシリコンバレー流の考え方をインプットしている中で、新しい事業価値の創造についてボンヤリ考えていたことが急に線でつながったので、それをまとめてみたいと思います。
(赤字部分、重要です。本論では、あくまで「新事業価値創出についてのみ」論じています。
(赤字部分、重要です。本論では、あくまで「新事業価値創出についてのみ」論じています。
その後、自宅のソファでふんぞり返りながら、一瞬眠りに落ちたりしながら考えると、どうも以下の三部作に分けるのがよさそうだ、と思い至りました。
- Vol.1 デザイン思考の3つの要素から見る、昔のビジネスコンサルティングの限界
- Vol.2 デザイン思考の5つのプロセスから見る、日本のWebデザインの限界
- Vol.3 Coinの失敗事例に学ぶ、ビジネス論文の使い方
今日はこのVol.1について書いてみようと思います。
少しだけ昔話:2005年頃のビジネスコンサルティング
今をさかのぼること10年以上前のこと、私の転職活動中に、とある世界的な戦略コンサルティングファームのパートナー(一般に、コンサルティングファームにおけるコンサルタントの最上位職位)の方と面接をする機会がありました。
その際に、当時の私が疑問に思っていた質問をぶつけてみました。その時のやり取りは、おおよそ以下のようなものでした。
私 「戦略コンサルタントは、顧客と利害が一致しないことが強みでもありますが、同時に弱みでもあります。弱みは、コンサル案件の結論にコンサルタントは最終的に責任を持てない。ゆえに、本当の意味で顧客の価値創造が出来ない。なぜ、コンサルタントは責任を取らないのでしょう?」
パートナー 「それはコンサルタントのすることではないからです。事業の責任はクライアントにある。コンサルタントは、あくまで第三者の立場でクライアントに価値を提供することが仕事です」
私 「でも、コンサルタントに案件を依頼するクライアントは何かしらの価値創造を求めているわけですよね?真にクライアントの価値を考えるのであれば、コンサルタントも例えば出資するなどして共同責任を負う立場にならないと、クライアントの利益という本当の価値は出ないのでは?」
最後の質問に対する答えは忘れてしまいましたが、少なくとも当時の私が納得する答えではなかったことだけ覚えています。
上記は、今でも感じているコンサルティングの限界です。現在はコンサルタントではなく、コンサルタントに仕事を依頼する側に居る身として常に念頭に置いているのが「コンサルタントは結論に責任を取るのではなく、結論に至る過程をアシストしてくれるだけだ」という点です。
※ちなみに、私は戦略コンサルタントの価値を否定しているわけではありません。私がコンサルタントの価値を見誤っていた、というだけです。
※さらにちなみに、当時の私はベンチャーキャピタルという存在を知りませんでした。自ら出資し、時には人も出してクライアント(投資先)とともに成長する、というビジネスは世の中には存在します。つまり、私はコンサルタントに対して「なぜベンチャーキャピタルのような仕事をしないのか?」という、無知な質問をしていたわけです。そりゃ不採用にもなるわな。
閑話休題。
この「私が考えたコンサルティングの限界」について、デザイン思考の3つの要素が見事に説明してくれていました。
デザイン思考とは?
デザイン思考の概論については、すでに日本語での解説も多くあるようですのでここでは割愛します。以下の参考リンクをご参照ください。
(日本語) デザイン思考を15分で学ぶページ
(英語) デザイン思考のビジネス応用提唱者デイビッド ケリーが創業したIDEO社の会社説明
デザイン思考の3つの要素
さて、ここで冒頭に掲出した画像の出番です…が、少しだけ色の場所を変えます。
デザイン思考の3つの要素、Desirability, Viability, Feasibility。 |
デザイン思考の考え方では、何よりまず「Desirability」、つまり「お客様はこれを欲しがるのか?」についてを最初に考えるべき、と説いています。これはこれで私も共感するところなのですが、本論においては「Viability」に色を付けます。
Desirability、つまり「顧客の悩みを解決し、顧客が対価を支払いそうか?」については第三者であるコンサルタントでもある程度判断は出来ます。市場調査、テスト販売、あるいはコンサルタント自身が消費者としてそれを求めるか?など。
Feasibilityは客観的な視点です。技術的に、物理的に、あるいは社内の資金や人材などのリソース的に見て、できるのか、できないのか。ある意味、コンサルタントが最も得意とするところではないかと思います。
しかしながらViabilityについては、第三者であるコンサルタントには判断が出来ない。
「客観的に見て、この新規事業が最もリスクが低く、かつ成功する可能性があります」
それ以上のことは言えないんです。クライアントのビジョン、事業目的をアタマでは理解したとて、そのクライアントの中の人ではない。
基本的には、コンサルタントというのは第三者。クライアントからモノ・サービスを買う顧客でもないし、株主でもないし、オーナーでもない。このViabilityを「本当の意味で」判断することはできない存在です。
これが、私が考えるビジネスコンサルティングの限界。
従って、もしあなたが、自分の会社を何とか変えたい、新しい価値を生み出したいと考えるのであれば、依頼先はコンサルタントではないように思います。
(では、どうするか? 試しにデザイン思考を使って考えてみてはいかがでしょうか)
コンサルタントの価値は、「卓越した知見と明晰な頭脳をもって、複雑怪奇な事象を解析し整理する」ことであったり、「現状最も確からしい、リスクの低い選択肢の提案」にあるのであって「新しい事業価値の創造」ではないのかな、と今になって考える次第です。
…ただ、私の「ビジネスコンサルティング」に対する知見は10年以上前のものです。もしかしたら今は変わっているのかもしれません。もしそうであれば、ぜひ一度お話を伺ってみたいものです。
総括
なんだかビジネスコンサルティングを否定する文章みたいになってしまいましたが、決して私にその意図はありません。例えばクライアントのワークスタイル改革だとか、生産性向上だとか、企業内の病の治療などには相性バツグン。それはコンサルタントが第三者であることが最も強みとして活きる領域です。
単に私がコンサルティングをしているなかで感じていたもどかしさは、このデザイン思考の3要素を使うと明確に説明できると感じた、というだけの話です。
つまり、新しい事業価値を創造したかったら、自分たちでやるしかないんだよな、ということ。
もしコンサルタントさんたちに、どうしてもその輪に入ってほしかったら、きっと利害関係を一致させるしかないんでしょうね。出資してもらうか、雇用契約を結ぶか。でもきっと、その人との関係はもはやコンサルティングじゃない。そのヒト個人と目標を共有して「自分たち」になってもらう、ということでしょうね。